一歩先は要介護…注意すべき『フレイル』の判断基準と予防方法

フレイルは健常な状態と機能障害との間の移行状態。多くの高齢者がフレイルを経て徐々に要介護状態に陥ると言われています。そんなフレイルの有症率は65歳以上の高齢者全体で11.5%つまり10人に1人以上、予備軍は32.8%(3人に1人)と言われています。加齢とともに身近になるフレイルですが、きちんと予防や治療を行えば健常状態に戻ることもできるのです。フレイルとはなんなのか、症状や原因、チェック方法と予防方法を紹介します。
【フレイルとは?(概念と診断基準)】
フレイルとは、カラダがストレスに弱くなり身体的機能や認知機能の低下がみられる状態のこと。健康な状態と要介護状態の中間に位置します。
加齢に伴って一方的に衰えた状態である「老衰」「衰弱」などとは少しニュアンスが異なり、治療や予防を行うことで健康な状態に戻ることができるという意味も含まれています。

では、具体的にどのような状態になると「フレイル」と診断されるのでしょうか。 統一されたフレイルの評価基準は実はありませんが、一般的にFriedらの評価基準が用いられています。
- 1. 体重減少…6ヶ月で2~3kg以上体重が減った
- 2. 疲労感…「わけもなく疲れた」と感じる
- 3. 筋力(握力)の低下…利き手の測定で男性26kg未満、女性18kg未満
- 4. 歩行スピードの低下…1m/秒未満の場合(前後1m前後の助走路と、測定期間5mで計測)
- 5. 身体の活動量の低下…1週間に軽い運動や体操や定期的な運動やスポーツをしていない
この5項目のうち、3項目以上が当てはまるとフレイルとし、1~2項目が当てはまる場合はプレフレイルと呼びます。当てはまることがない場合は健常といえます。
【フレイル状態になるとどうなる?】
フレイル状態になるとどうなってしまうのでしょうか。
フレイル状態になると、身体機能が低下したり、死亡率が上昇します。フレイル状態はカラダがストレスに弱く、すぐそこに要介護状態が待っています。
そのため、健康な状態であればさほど数日すれば治る程度の風邪であっても、フレイル状態の人であれば肺炎を引き起こしてしまったり、転倒により入院して寝たきりになってしまうということもあるのです。つまり小さな出来事がきっかけで要介護状態になる危険が高くなってしまうということです。
【フレイルの原因】
フレイルは、主に身体的・精神的・社会的問題が合わさって起こります。
- ・身体的な問題
加齢などにより運動機能が低下して起こる身体的な問題です。 筋量の減少、食欲不振、低栄養、嚥下機能の低下、活動量の低下、サルコペニアなどが影響しています。
- ・精神的な問題
記憶力や判断力の低下により起こる問題です。 うつや物忘れ、軽度の認知障害、認知症などが影響しています。
- ・社会的な問題
外出や外部との交流が減少することにより起こる問題です。 周囲のサポートがない孤立した状態や、外出の頻度の減少、閉じこもりなどが影響しています。
筋力が低下し疲れやすくなる(身体的問題)→疲れるから外に出なくなる(社会的な問題)→閉じこもりがちになってうつ傾向が出る(精神的な問題)のように悪循環に陥ってしまう場合もあります。
つまり、フレイルの進行を予防するためには、これらの1つを解決すれば良いというわけではなく、3つの面を総合的にみる必要があります。
【陥ると危険!フレイルサイクルとは?】
フレイルは栄養問題と密接にかかわりがあります。
食欲低下や嚥下機能の低下などで食事の摂取量が減ると低栄養に陥り、サルコペニアに至ります。サルコペニアになると、疲労感・筋力の低下、それに伴い身体機能の低下につながり活動量が減ります。活動量が減ることで、エネルギー消費量が減り、食欲低下につながります。こうなると完全に悪循環です。
このような負のサイクルを「フレイルサイクル」といいます。

【あなたは大丈夫?フレイルのチェック方法】
フレイル早期にフレイルの軽微な兆候に気が付くことができるように、東京大学高齢社会総合研究機構の飯島勝矢教授によって、フレイルチェックプログラムが開発されました。
簡易的にフレイルをチェックする方法として、フレイルチェックプログラムの中の、指輪っかテストとイレブン・チェックを紹介します。
・「指輪っかテスト」
これは、フレイルの大きな要因であるサルコペニアの危険度が高いかどうかを確認するテストです。下記の手順でテストをしてみましょう。
- 1. ぶつからないように自分の周りのスペースを確保します。
- 2. 利き足ではないほうのふくらはぎの一番太いところを測ります。膝の角度は90℃になるようにします。
- 3. 親指を後ろ(ふくらはぎの裏側)になるようにして、親指と人差し指で作った「指輪っか」で軽く添えるようにして囲みます。
⇒結果
・囲めない人またはちょうど囲める人:危険度は低いです。
・隙間ができてしまう人:危険度が高いです。
囲めない、ちょうど囲めるという人も安心はできません。もしかしたら筋肉が脂肪に置き換わるサルコペニア肥満になっている可能性もあるのです。このテストで大丈夫だったからといっても安心しきることなく日々の生活習慣に気をつけましょう。
・「イレブン・チェック」
フレイルの兆候があるかどうかのテストです。自分の体や生活を振り返って、フレイルのリスクとなる要因はないかを確認してみましょう。
《栄養》
- 1. ほぼ同じ年齢の同姓と比較して健康に気を付けた食事を心がけていますか?
→「いいえ」の方は要注意!食事のバランスを意識してみましょう。
- 2. 野菜料理と主菜(お肉またはお魚)を両方とも毎日2回以上は食べていますか?
→「いいえ」の方は要注意!たんぱく質は体を作るに大切です。積極的に摂りましょう。
- 3. 「さきいか」「たくあん」くらいの固さの食品を普通に噛みきれますか?
→「いいえ」の方は要注意!噛む力が弱くなっている可能性があります。
- 4. お茶や汁物でむせることがありますか?
→「はい」の方は要注意!飲み込む力が弱くなっている可能性があります。
《運動》
- 5. 1回30分以上の汗をかく運動を週2回以上、1年以上実施していますか?
→「いいえ」の方は要注意!日々の生活に運動習慣を取り入れてみましょう。
- 6. 日常生活において歩行または同等の身体活動を1日1時間以上実施していますか?
→「いいえ」の方は要注意!歩く・動くなど活動量を増やすことを意識しましょう。
- 7. ほぼ同じ年齢の同姓と比較して歩く速度が速いと思いますか?
→「いいえ」の方は要注意!歩く速さが遅くならないよう足腰を鍛えることを意識しましょう。
《社会参加》
- 8. 昨年と比べて外出の回数が減っていますか?
→「はい」の方は要注意!社会参加のために、外出の機会を増やしてみましょう。
- 9. 1日1回以上は、誰かと一緒に食事をしますか?
→「いいえ」の方は要注意!誰かと食事をすることは幸福感につながります。ぜひ機会を増やしましょう。
- 10. 自分が活気に溢れていると思いますか?
→「いいえ」の方は要注意!心が疲れている可能性があります。注意しましょう。
- 11. 何よりもまず、物忘れが気になりますか?
→「はい」の方は要注意!心が疲れている可能性があります。注意しましょう。
【フレイルにならないための予防方法】
フレイル予防のために大切な3つのポイントは「栄養」「運動」「社会参加」です。この3つは相互に影響しあっています。最近の研究で、特に「社会参加の機会が低下すること」がフレイルの最初の入り口になりやすいことが分かってきています。
それぞれ下記のようなことを意識してみると良いでしょう。
- ・栄養:バランスのよい食事、みんなで楽しい食事、よく噛んでしっかり食べること。
- ・運動:日常的な運動習慣、10分多く体を動かすこと。
- ・社会参加:趣味やボランティア、就労など自分に合った方法で社会参加をすること。
フレイルは、対策次第では健康状態に戻ることができます。いかに自立したままで生活の質を維持するかは、そのときどきにどのように対応するかです。
- 1. まずは、 日々の生活習慣を見直し、健康増進を意識する(フレイルのリスクを断つ)。
- 2. フレイルの兆候が表れたら早期発見・早期対応をする(フレイルの兆候を早く発見し、対応する)。
- 3. フレイルと診断されたら、 重症化を防ぐ(要介護状態になることを防ぐ)。
この三段階で自分の状況に合わせて対応するようにしましょう。必ずしも医師の診察が必要ではありませんが、筋力の衰えや疲れやすさを感じるようになったら、専門医に診察を受けてみることも予防の1つです。
フレイル予防には周りのサポートも大切です。家族や知人にフレイルの兆候が出ていないかを確認してみましょう。
【まとめ】
日本では高齢化が進んでいます。健康的な生活を長く送るためには、食事・運動・社会参加の面から日々の生活を見直し、良い習慣を取り入れていく必要があります。フレイルは、対応しだいで健康な状態に戻ることができます。
フレイルの兆候がある人は、悪循環であるフレイルサイクルに陥ってしまう前に、どこかで負の流れを断ち切りましょう。健康な状態の人は、これからも自分の体、生活に気をかけて良い習慣を続けるようにしましょう。

