高齢者の食事量の目安とは?3つの注意点・6つのポイントを紹介
高齢になると、活動量が低下し、それに伴い食事量も減る傾向があります。 栄養不足や偏った食事により栄養バランスが乱れてしまうと、心身に不調をきたすおそれがあります。 高齢者が元気に過ごすためには、食事から必要なカロリーや栄養を摂ることが大切です。そのためには、食べてもらうための工夫も欠かせません。 本記事では、以下の内容について詳しく解説していきます。
■この記事でわかること
- ・高齢者の食事量の目安
- ・高齢者の食事における注意点
- ・適切に食事を摂ってもらうためのポイント
高齢者の適切な食事量と、おいしく食べてもらえるポイントをしっかり押さえましょう。
高齢者の食事量の目安
高齢者は、さまざまな要因から食事量が不足しがちです。では、高齢者にはどの程度の食事量が必要なのでしょうか。
「日本人の食事摂取基準2020年版」によると、高齢者のカロリーの目安は下表の通りです。
■1日の推定エネルギー必要量(kcal)
身体活動レベル▼ | 男性 | 女性 | ||
---|---|---|---|---|
65~74歳 | 75歳以上 | 65~74歳 | 75歳以上 | |
レベル1 | 2,050 | 1,800 | 1,550 | 1,400 |
レベル2 | 2,400 | 2,100 | 1,850 | 1,650 |
レベル3 | 2,750 | - | 2,100 | - |
【身体活動レベル】
- レベル1(低い):生活全般を座ったり寝転んだりして過ごす、高齢者施設で自立に近い状態で過ごしている場合にも適用される
- レベル2(普通):ほとんど座って過ごす、家事や買い物、軽作業はできる、75歳以上は自立している者に相当する
- レベル3(高い):立ったり動いたりすることが多い、定期的に運動している
なお、この指標は以下の体格を基準として考えられています。
男性 | 女性 | |||
---|---|---|---|---|
65~74歳 | 75歳以上 | 65~74歳 | 75歳以上 | |
身長 | 165.2 | 160.8 | 152.0 | 52.1 |
体重 | 65.0 | 59.6 | 52.1 | 48.8 |
この指標を基に、「男性・65~74歳・身体活動レベル1」の方の1日の献立例を紹介します。1日の総カロリーが2,050kcalの場合です。
■2,050kcalの献立
朝 |
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昼 |
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おやつ |
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夜 |
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監修者コメント
たんぱく質や脂質をしっかり摂り、エネルギー量を補うよう意識する必要があります。また、摂取すべきエネルギー量が少なくなっても、必要なたんぱく質量は変わらないことを覚えておきましょう。
高齢者の食事量に関する注意点
高齢者の食事量については、以下のような事柄に注意する必要があります。
- ・介護食は十分なカロリーや栄養素を摂取できないケースがある
- ・満腹感が得られないこともある
- ・栄養バランスが偏りやすい
それぞれ見ていきましょう。
介護食は必要な食事量を摂取できないことがある
流動食やムース食といった介護食は、水分を足して全体量が「かさ増し」されるため、少ない量でも満腹になりやすいです。そのため、必要な食事量を満たせないことがあります。
また、刻み食の場合は「スプーンからボロボロとこぼれ落ちてしまい食べにくい」という理由から、食事を残してしまうことも少なくありません。
加えて、介護食は本来の料理の原型が失われるため、食欲が湧きにくい点も食事量が不足してしまう要因です。介護食を用意する場合は、食欲が湧く工夫をする必要があるでしょう。
満腹感が得られないこともある
人間は噛んで食事をすることで中枢神経が刺激され、満腹感を感じやすくなります。しかし、介護食は食べやすさに配慮しているため、やわらかく調理されていたり、噛む必要のない形態になっていたりすると、咀嚼の必要性がありません。
そのため、食後に「満腹感を得られない」「食べた気がしない」といったことも起こりやすいです。
咀嚼能力があるうちは、できる限り常食に近い食事形態を保つことも大切です。ゆっくりよく噛んで食事をすることで、咀嚼力の維持に繋がり、満腹感も得やすくなるでしょう。
栄養バランスが偏りやすい
介護食は、満腹になりやすい形態のため、食事を残してしまうケースも少なくありません。必要な栄養素を摂取できなければ、栄養バランスが偏ってしまいます。
逆に満腹感が得られずに食べ過ぎてしまえば、栄養過多により病気を発症してしまうこともあります。
栄養素は、バランス良く摂るのが理想であり、不足しても摂り過ぎても良くありません。
栄養バランスの偏りは、身体機能だけでなく、精神面にも影響を与えます。例えば、集中力の低下や認知機能の低下、痴呆症の発症リスクの上昇、情緒不安定などの症状が現れることがあります。これらは本人や家族も気づきにくいため、知らないうちに進行してしまうことが多いです。
高齢者の栄養素の指標は以下の記事で紹介しているので、そちらで必要な食事摂取量を確認してください。
https://docs.google.com/document/d/1geEmMM91gGM5jbaPEksM1iY-pgpFERRRwltAxdsQCZk/edit
監修者コメント
介護食だからこそ生じる問題点に着目することが大切です。どのような改善ができるのか、具体的な策を考えていきましょう。
高齢者に適切な食事量をとってもらうためのポイント
高齢者は、思っている以上に必要な食事量が摂れていないケースが多いです。しかし、少し工夫するだけでも、食べる量が増えることもあります。適切な食事量からエネルギーを摂取するためには、次のポイントを参考にしてみてください。
- 運動を行ってお腹を空かせる
- 食欲の湧くような見た目を意識する
- ひと手間でカロリーや栄養素を追加する
- 食材や調理法でカロリーや栄養素を追加する
- 満腹感を感じやすくする工夫を行う
- 宅配食事サービスを利用する
運動を行ってお腹を空かせる
高齢者は活動量が減少するため、空腹を感じにくい場合があります。活動量の減少によって食事量が減少しているようなら、運動をしてお腹を空かせるのが効果的です。
運動することでエネルギーを消費すれば、脳がエネルギー不足を感知し、エネルギーを補給するように指令を出すようになります。
体に大きな負担のかからない、以下のような運動を日常生活に取り入れましょう。
- ストレッチ
- 体操
- ウォーキング
- 自転車を漕ぐ
- イスに座って足上げ運動
- 踏み台昇降
- 下肢体感部の筋肉トレーニングなど
なかには、運動をする活力が湧かない状態の方もいるかもしれません。その場合、まずは食事量を増やす、カロリーや栄養素の摂取量を見直すなどして、身体機能や精神的な回復を優先しましょう。
また、運動を制限されている方は、医師の指示に従ってください。
食欲の湧くような見た目を意識する
食材の原型がないため食欲が湧きにくいという介護食の特徴を考慮し、見た目に気を配る必要があります。楽しくおいしく食べてもらうために、以下のような工夫をしてみましょう。
- ■色のある食材を取り入れる(トマト、ニンジン、ブロッコリー、紅生姜 など)
- ■食材ごとにミキサーにかける、刻む(色を分けて盛り付ける)
- ■型抜きを使って成型する
- ■季節感や行事を料理で演出する
(春:桜色のご飯をさくら型に詰める、七夕:ゼリーを星型で型抜く など) - ■お皿やランチョンマットにこだわる
赤や黄色、緑色などの野菜を取り入れて、色彩豊かに仕上げるのがポイントです。盛り付けるお皿も料理が映えるように、おかゆには黒い器、彩りの良い主菜には白いお皿などと工夫しましょう。
ひと手間でカロリーや栄養素を追加する
食事量を確保するのが難しい場合は、食材を加えたり、アレンジしたりすることでカバーすることもできます。以下は、食材にひと手間を加えることで、カロリーや栄養素を追加する方法です。
- ■食パン(バター、ジャム、チーズ、ピザトーストなどのアレンジをする)
- ■ヨーグルト(ジャム、果物、シリアルを加える)
- ■サラダ(茹で卵、シーチキンやサラダチキンを乗せる、粉チーズやゴマを振りかける)
- ■パスタにオリーブオイルを絡める
- ■豚汁にごま油を回しかける
- ■コーヒーを牛乳に変える
例えば以下のような工夫で、朝食や昼食に、たんぱく質の多い食材を加えてみましょう。
食事量を増やさずにカロリーや栄養を摂取できるので、高齢者への負担の軽減にも繋がります。
食材や調理法でカロリーや栄養素を追加する
食材や調理法を工夫することで、カロリーや栄養素の摂取量を増やすことができます。
おいしいものであれば食べたい気持ちになりやすいため、高齢者の好みの味の食事を出すことも大切です。食材選びや調理法でカロリーや栄養素を追加する方法を紹介します。
- ■水煮缶ではなく油煮缶を選ぶ(さば水煮缶⇒さば油煮缶)
- ■おひたし(油揚げやさつま揚げを足す)
- ■脂質の多い肉を選ぶ(ヒレ肉⇒バラ肉)
- ■味付け(酢の物⇒マヨネーズ和え)
- ■ポタージュにする(さまざまな野菜を一緒に食べられる)
- ■茹でるよりも焼く(しゃぶしゃぶ⇒焼肉)
- ■焼くよりも揚げる(焼き魚⇒フライ+タルタルソース)
素材の味を活かした味付けも大切ですが、エネルギー量が不足している場合は油分や脂を多く含む食材や味付けを意識して取り入れましょう。
満腹感を感じやすくする工夫を行う
食べ過ぎてしまう方には、満腹感を感じやすくさせることが大切です。以下は、食べ過ぎてしまう方に向けた工夫です。
- ■小さめのお皿に盛りつける(錯覚)
- ■いつもより多めの量であると伝える(思い込み)
- ■料理のボリュームを意識する
(ヘルシーな食材でかさを増す、厚みある食材や料理を選ぶ⇒ステーキやハンバーグ、とんかつなど) - ■たんぱく質を積極的に取り入れる(満腹感が持続しやすい)
小さめのお皿に盛り付けることで、同じ量でも多く見えるようになります。また、いつもより多めに盛ってあることを伝えることで、たくさん食べたような気持ちになるかもしれません。
厚みのある食材や料理を出すと、ボリューム感があり、満足しやすいでしょう。たんぱく質を多く含む食材は満腹感が持続しやすいため、積極的に取り入れることをおすすめします。
宅配食事サービスを利用する
宅配食事サービスとは、弁当や食事を自宅まで届けてくれるサービスのことです。
栄養バランスやカロリーが考慮されたメニュー構成になっており、カロリーも記載されています。栄養を考えた献立の作成やカロリー計算の負担を減らせるのがメリットです。
また、介護食や制限食を扱っているサービスもあります。どのサービスを選べば良いのかわからないという方は、「シニアのあんしん相談室」がおすすめです。
全国の宅配食事サービスを比較でき、地域で対応可能なサービスも確認できます。宅配食事サービスの利用を検討する際は、ぜひチェックしてみてください。
- ・食パンにバターやチーズをのせる
- ・野菜サラダにゆで卵やシーチキンなどをプラスする
- ・パスタや料理に油を回しかける
高齢者の食事摂取量【まとめ】
高齢者の食事量の目安は、体重や身体活動レベルによって異なります。それぞれに適した摂取量を知り、適切な量を食べることが、健康的な生活につながります。
特に介護食は水分を足すため満腹になりやすかったり、反対に食感がない、上手に食べられないといった理由で残してしまったりと、食事量に関して注意が必要です。
適切な食事量をとってもらうためには、食材や調理方法を変える、料理の見た目にこだわるなど、周りの人の工夫が必要不可欠といえます。まずはできることから始め、徐々に改善していきましょう。
監修者コメント
高齢者にとって、3食バランス良く食べることは必要ですが、無理をさせないことも大切です。高齢者がおいしく楽しく食事ができることをベースに考えていくようにしてみてください。目安量を満たせない場合は、カロリーや栄養素を補うメニューにしたり、間食の回数を増やしたりして、不足分のカロリーを補えば問題ありません。日々の状態も変化していくため、臨機応変に対応していきましょう。
監修
中山友子
食品工場の品質管理にて、食品検査や分析業務を4年半担当しておりました。その後、病院や高齢者施設の厨房業務に2年半従事し、現在は食や健康のジャンルの記事を執筆する栄養士ライターとして活動しております。
その後、病院や高齢者施設の厨房業務に2年半従事し、現在は食や健康のジャンルの記事を執筆する栄養士ライターとして活動しております。
食の専門家として、食に関する知識や役立つ情報をお届けいたします。