高齢者に食事を楽しみにしてもらうには?周囲の人ができる工夫を紹介
高齢者に食事を楽しみに思ってもらうためには、どのような方法が効果的なのでしょうか。 高齢者に必要なエネルギーやたんぱく質の量などは、働き盛りの世代と大きくは変わりません。しかし高齢者は食が細くなり、必要な栄養素が不足しているケースが多くなります。 食事をしっかり摂るには「食事が楽しみだ」とポジティブな印象を持っている必要があります。そこで本記事では、本記事では食事の大切さや、食事を楽しめなくなる原因を解説した上で、高齢者に食事を楽しんでもらうためのポイントを紹介していきます。
■この記事でわかること
- ・食事の大切さ
- ・高齢者が食事を楽しめなくなる理由
- ・五感を活用した食事の楽しみ方
高齢者の食事摂取基準を理解したうえで、日々の食事に活かしていきましょう。
高齢者にとっての食事の大切さ
高齢者に限らず、食事で心身に必要な栄養素を摂取することは、健康に生きていくために必要な行為です。食事を摂らないと、筋力や免疫力などの維持といった身体機能が低下することはもちろん、メンタルヘルスにも悪影響があります。
食事では味覚だけでなく、視覚・嗅覚・触覚・聴覚の五感を使っておいしさを感じ取り、心の満足感を得ています。しかし高齢になると食欲が低下しやすく、五感が満たされるような食事を摂る機会が減ります。するとさらに食への関心が薄れ、食欲低下が進む悪循環に陥り、心と体の健康バランスが崩れてしまうのです。
悪循環を防ぐためにも、食への楽しみを見出し、積極的に食事を摂ってもらうことが重要になります。
監修者コメント
食べることは生きることに直結します。「食べられれば何でもいい」という考えでは栄養バランスが偏り、気が付くと食欲不振や低栄養状態になっていることもあります。
食に楽しみが生まれると自然と色々な食材を食べるようになり、栄養バランスも整いやすくなります。
高齢者が食事を楽しめなくなってしまう理由
なぜ高齢者が食事を楽しめなくなってしまうのでしょうか。人によってさまざまな理由がありますが、そのなかでもよくある理由を下表にまとめました。
理由 | 詳細 |
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肉体的な病気 |
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加齢 | 以下のような理由での運動量、基礎代謝の低下による食欲不振
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ストレスや精神的な病気 | 以下のような理由での精神的な食欲不振
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生活習慣の乱れ | 以下のような理由での買い物回数の減少による、食事量減少
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主に考えられるのは病気や薬、認知症などの肉体的な問題や、運動量や基礎代謝量の低下など加齢による食欲低下です。
また、精神的・社会的な要因が絡んでいることも少なくありません。家族が身近にいない孤独感や、免許の返納による不便さなどが理由となり、食への興味関心が薄れてしまうのです。
そのほかの高齢者が食事を摂らない原因について知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
高齢者が食事を食べない5つの原因と解決策を解説高齢者に食事を楽しんでもらうためのポイント
高齢者に食事を楽しんでもらうためには、栄養バランスを考えつつ、五感を使って食事を楽しめるような工夫が必要です。ここでは食事を楽しんでもらうための、五感それぞれに対するアプローチの方法を紹介します。
視覚「見る」 | 料理の見た目、色、周りの環境 |
聴覚「聴く」 | 調理中の音、噛んだときの音、周りの環境 |
味覚「味わう」 | 味付け、口腔ケア |
嗅覚「嗅ぐ」 | 調理中の香り、食事中の香り |
触覚「体で感じる」 | 舌触りや歯ごたえ |
視覚「見る」
料理を見て「おいしそう」「早く食べたい」「素敵・きれい」と思うことは、食欲にも直結します。例えばAとBのお刺身、どちらが食欲をそそるでしょうか。
A:紙皿に適当に並べられたお刺身
B:高級感のある皿に大根のつまや大葉などを用いてきれいに盛られたお刺身
大半の人はBをおいしそうと感じるはずです。“料理は見た目が9割”という言葉があるように、見た目をよくすることが、おいしさを感じる第一歩と言っても過言ではありません。
介護食の刻み食やミキサー食は食べ物の原型がなく、どのような料理なのか判別できません。また見た目が良いとは言えないため「おいしそう」と感じるのは難しいはずです。そのため、食材の選び方や飾り付け、お皿の色や形など食卓全体の見た目を工夫しましょう。
例えば刻み食の場合、ハンバーグはハンバーグ、付け合わせはそれぞれ別に刻んで盛り付けるなどの工夫をすると、色どりがよくなり、おいしそうに見えるでしょう。
また食事環境も重要です。家族がおいしそうに食事をしている姿を見るとうれしくなるように、ひとりで食べるよりも誰かと一緒に食べることで食事が楽しみになります。
下記のポイントを食事の際に意識してみると、同じ料理でもよりおいしく感じやすくなるでしょう。
- ・食材の彩りを考える
- ・料理の盛り付けの美しさを意識する
- ・ランチョンマットやお皿の色・デザインにこだわる
- ・食べる時間を合わせる、遠方の場合は定期的に一緒に食べる機会を設ける
監修者コメント
ミキサー食の場合でも工夫できるポイントがあります。例えば煮物は一緒くたにしてミキサーにかけるのではなく、素材ごとにミキサーにかけて、できるだけ素材が持つ色を残すとよいでしょう。
それぞれがおいしそうな色をしていても、一緒にすると茶色や灰色っぽい色になっておいしくなさそうに見えてしまいます。
聴覚「聴く」
聴覚からの情報も、食事を楽しむ要素のひとつです。一見食事と聴覚は関係なく見えますが、調理の音や咀嚼音、家族との会話が食事の楽しさにつながります。
例えば食材をフライパンで炒める音や、油で揚げている音が聞こえると「何の料理ができるのかな」と、食事が楽しみになるのではないでしょうか。
また、天ぷらなどの揚げ物を食べたときの「サクッ」という音も、食欲をそそったり「おいしい」と感じたりする重要な要素になっています。
さらに静かな空間で黙々と食べるよりも、人の話し声や笑い声があるほうが楽しく食事ができるはずです。誰かと一緒に会話をしながら食事をするにぎやかな音も、食事の楽しさにつながります。
音に関する以下のポイントも、ぜひ食事の際に取り入れてみましょう。
- ・調理中に近くの部屋にいてもらう、一緒に料理を行うことで調理音を聴かせられる
- ・食べる方の咀嚼機能に合わせて固さを残し、食べるときの音を楽しんでもらう
- ・食べる時間を合わせる、遠方の場合は定期的に一緒に食べる機会を設ける
味覚「味わう」
味は、食事をおいしいと感じるうえで最も重要です。いくら素晴らしい見た目でも、おいしくなければ箸が進まないでしょう。
ただし、私たちがおいしいと感じる味付けであっても、高齢者は感じ方が異なる場合もあります。加齢による味蕾(舌の味を感じる部分)の減少や、唾液量の減少、薬の副作用などで味覚障害が起こることがあるからです。味覚障害が起こると、今まで通りの味付けではおいしさを感じにくくなり、食事の楽しさが半減してしまいます。
高齢者がおいしいと感じられるよう、以下のようなサポートを行いましょう。
- ・リクエストに応じて作る(栄養バランスに注意)
- ・スパイスや薬味、出汁を使って旨味や香りで味を感じてもらう
- ・食材やサプリメントで亜鉛を摂取してもらう
- ・うがいや水分補給で口の中を常に潤してもらう
- ・舌を磨いてもらう
嗅覚「嗅ぐ」
嗅覚は、味覚と同様においしさを左右する要素です。人の家の前を通ったときにカレーの香りが漂ってきたり、パン屋さんの前に漂ういい香りを感じたりしたとき、「おいしそう」と感じた経験はないでしょうか。
嗅覚の重要性は、風邪などで鼻が詰まっているときの食事を思い出すとわかりやすいでしょう。鼻が詰まっていると、いつもと同じ料理を食べてもあまり味を感じないものです。
上記を踏まえ、高齢者に食事を楽しんでもらうために、以下のような工夫をしてみましょう。
- ・食べる方の好きな料理を作る(香りから味”おいしさ”が思い浮かぶ)
- ・スパイスやハーブを使う
- ・調理中に近くの部屋にいてもらう、一緒に料理を行う
触覚「体で感じる」
忘れてはならないのが、触覚です。食事で言う触覚は「口の中でとろける」「もちもち食感」「サクッとした歯ごたえ」といった舌触りや歯ごたえのことです。
人間は料理ごとに固さや食感を自然とイメージしているでしょう。例えば天ぷらは「サクッ」、餃子は「ジュワッ」、うどんなど麵類は「ツルッ」というように、何かを食べたいと思う、あるいは食べる際は、自然と料理の食感までイメージするものです。
高齢者の場合、摂食嚥下能力(かんだり飲み込んだりする力)が弱まっていることもあり、普通の食事とは違う食感になることもあります。しかし、普通の食事の食感をできるだけ残して調理することは、高齢者の食事の楽しみにもつながるのです。
また食事の温度も重要視しましょう。できるだけ熱いものは熱いまま、冷たいものは冷たいまま提供することで、食欲がわきやすくなります。
- ・できるだけ出来立てを提供する(揚げ物の場合)
- ・料理ごとにイメージされた食感を残して調理を行う
高齢者に食事を楽しみにしてもらうには?【まとめ】
高齢者は肉体的、精神的、社会的な理由により食欲が低下しやすいです。低下した食欲は放っておいても回復することはありません。
高齢者に食事の楽しさを味わってもらうには、「視覚」「聴覚」「味覚」「嗅覚」「触感」の五感それぞれに訴えかける必要があります。
視覚:彩り、食材選び、お皿の色、誰かと顔を合わせて食べる
聴覚:調理音、咀嚼音、会話
味覚:味付け、口腔ケア
嗅覚:好きな料理を作る、調理する部屋の近くにいてもらう
触覚:出来立てを提供、イメージに近い食感を残す
ただし介助者側も高齢者であったり、仕事をしてたりして、毎日手間をかけて料理できないときもあるでしょう。食事作りは毎日のことなので、介助者側が息切れしないよう工夫しなければなりません。
そんなときは宅配の食事サービスを利用してはいかがでしょうか。栄養バランスや見た目、味付けにこだわった食事が自宅に届くので、手軽に健康的な食生活が送れます。
シニアのあんしん相談室は、全国の宅配弁当・食事サービスを比較、申し込みができます。無料の試食を行っている業者もあるので、まずは試してから申し込みたい方にピッタリです。
監修者コメント
すべてのポイントを完璧に押さえる必要はありません。まずはできるところから取り入れてみましょう。それでも難しければ、宅配弁当や食事サービスを活用するのもおすすめです。
1週間のうち数回でも調理に手がかからなくなれば、介助者側の気持ちにもゆとりが生まれるでしょう。
監修
相田すみ子
寮生の栄養管理、老人保健施設、内科・整形外科などで経験を積んだ後、フリーの管理栄養士兼ライターとして活動。
今日より少し健康になれるレシピを開発したり、体と栄養の関係について多くの人に伝えたりするために、コラム執筆、本の執筆協力などを行っている。