嚥下職ピラミッドとは?段階別にわかりやすく解説
嚥下とは、食べ物や飲み物を口から飲み込み胃へ送り込む一連の動作のことをいいます。人によって嚥下状態は異なるため、食べる方に合わせて安全な食事を提供できるよう食事を段階分けしたのが、嚥下食ピラミッドです。
■この記事でわかること
- ・嚥下食ピラミッドとは何か
- ・嚥下ピラミッドの段階と分類
- ・嚥下食ピラミッド以外の分類と互換性
嚥下食の基礎知識については、以下の記事を参考にしてください。
嚥下食とは?適さない食品や調理のポイントを解説嚥下食ピラミッドとは
嚥下食ピラミッドとは、食べる方の摂食状態や嚥下状態に合わせて、食形態を普通食から嚥下食までの6つの段階に分類した指針のことです。
2004年に開催された「第10回日本摂食嚥下リハビリテーション学会」にて金谷節子氏が発表しました。金谷氏は、全国に先駆けて病院給食に真空調理を採用して画期的なメニューを実現し、病院食を楽しみながら選べる食事に転換するなど、臨床栄養学の発展に貢献した人物です。
当時、嚥下食は施設や地域ごとに名称などの基準が異なっていたため、情報の認識違いにより不適切な食事を提供してしまったり、市販食品を選んでしまったりすることがありました。嚥下食ピラミッドが普及したことにより、現在は不適切な食事による誤嚥などのリスクを避け、安全な食事の提供や摂取が可能になっています。
嚥下食ピラミッドの段階・分類
嚥下ピラミッドは、飲み込む際の誤嚥に重点を置いて段階別に分類されています。嚥下機能の状態によって開始する食事レベルは異なり、具体的には以下の図のように6段階に分けられています。
高齢による嚥下機能の低下では、食べる方の状態に合わせて「レベル5からレベル4」「レベル4からレベル3」というように、食べにくい食品から食べやすい食品に移行します。病気による患者の場合は、高齢者と反対に「レベル0からレベル1」と嚥下が難しい食品へと移行していきます。
レベル0:嚥下訓練食
レベル0の嚥下訓練食は、均質性があり、粘膜に付着しにくく、重力だけでのどをスムーズに通過する物性を持った食品を指します。
誤嚥の可能性が高い方を対象とするため、誤嚥した際の炎症を考慮し、極力たんぱく質の少ないゼリーなどが使われます。例えば、お茶や果汁をゲル化剤で固形化した、「お茶ゼリー」や「リンゴゼリー」「グレープゼラチンゼリー」などが挙げられます。
1食当たりの栄養量は1000kcal/100mlを基準とし、保存は2~5℃で、食事の際は15℃で提供します。
レベル1:嚥下訓練食
レベル1の嚥下機能食は、均質性を持ち、ざらつきやべたつきが少なく、重力だけでスムーズにのどを通過できる物性を持った食品を指します。粒がなくなるまで十分にミキサーにかけて、ゲル化剤で固形化したゼラチン寄せなどの食品が該当します。例えば、「ねぎとろ」「豆腐入り味噌汁ゼリー」「重湯ゼリー」「具なし茶わん蒸し」「プリン」などです。
1食当たりの栄養量は150kcal/300mlを基準とします。
レベル2:嚥下訓練食
レベル2の嚥下訓練食は、均質性があるものの、ざらつきやべたつきがある物性を持った食品を指します。レベル1よりも嚥下が難しくなります。粘膜に付着しやすいため、舌でのどに送り込む力がある程度必要です。例えば、「絹ごし豆腐」「ヨーグルトにんじんゼリー」などのゼラチン寄せなどが挙げられます。
1食当たりの栄養量は300kcal/500mlが基準です。食事の見た目に華やかさを加えたい場合は、型抜きをすると、元の食事の見た目に近づけられます。
また、レベル0~2はペースト状の食事のため、食品ごとの区別がつかず食欲が沸きにくくなりがちです。器の柄や色、色彩を工夫するなどして変化をつけましょう。
レベル3:嚥下食
レベル3の嚥下食は、不均質性のピューレを中心とした、舌でつぶしてのどに送り込める食品で、誤嚥せずに飲み込める人向けです。生クリームや油脂などを加えれば、肉や魚、食物繊維の多い野菜などのさまざまな食材を調理できるため、普通食に近く、レベル2に比べて、幅広いメニューを取り入れられます。
例えば、「スクランブルエッグ」「水羊羹」「嚥下寿司」などが挙げられます。口の中でまとまりにくい場合は、ゲル化剤などによりゼリー状にして提供しましょう。
レベル4:介護食
レベル4は介護食(移行食)となり、咀嚼や嚥下に障害がある方向けの食事です。パサつきやばらつきがなくなめらかで、むせにくいという特徴があります。箸やスプーンで切れる程度のやわらかさが目安になります。歯や義歯がなくても、歯茎で押しつぶせる程度の力が必要です。
例えば、「かぼちゃのやわらか煮」「こしあん」「パサつきのない魚のほぐし身」「ひと口大にした魚の照り焼き」「全粥」「軟飯」などが挙げられます。
レベル5:普通食
レベル5の普通食は咀嚼や嚥下、消化吸収機能が正常で、食事を摂ることに問題がない方に向いている、一般的な食事です。
介護食は食べやすいよう調理や加工が施されて提供されますが、普通食は特別な制限を持ちません。一般的にご飯、主菜や副菜は調理された形状のまま提供されることが多いです。
高齢者施設によっては、常食と呼ばれることがありますが、常食と普通食に差はなく、同じ食形態だといえるでしょう。ひじき煮や五目豆、ロールパンなどもそのまま提供されます。
監修者コメント
お寿司屋さんで外食をする場合は、シャリに醤油を付けるよりもネタ部分に付けたほうが塩分摂取量を控えられます。
ほかにもそば屋さんを利用する場合は、たっぷりつゆにつけず、1/3~半分程度つけると塩分が控えられます。
嚥下食ピラミッド以外の分類と互換性
嚥下食ピラミッド以外にも、食形態の分類はいくつかあります。ここでは、「学会分類2021」「ユニバーサルデザインフード」「そしゃく配慮食品の日本農林規格」「えん下困難者用食品」「スマイルケア食」の5分類について紹介します。
学会分類2021
学会分類2021は、正式名称を「日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021」と言います。学会分類2021は、嚥下調整食の食事の分類及び、とろみの分類を示した基準です。2013年に発表されたものをもとに、新たな知見を加えて2021年に改訂されました。原則的にそれぞれの段階を形態のみで示し、栄養成分や量は設定していません。
食事は「コード0」の嚥下訓練食から「コード4」の嚥下調整食まで7段階に分類されています。病態に応じて、摂取可能な食事量と、喫食者の利用必要量や適切な栄養量が考慮されています。
ユニバーサルデザインフード
ユニバーサルデザインフードとは、日本介護食品協議会により制定された規格に適合した商品のことを言います。日常の食事から介護食まで幅広く使えるよう、食べやすさに配慮されているのが特徴です。
商品パッケージには、ユニバーサルデザインフードのマークと共に、「硬さ」や「粘度」により分類された4つの区分が表示されているため、どの商品が適当なのかが一目でわかります。
区分とは、食べやすさの目安となる基準のことを言います。「かむ力の目安」と「飲み込む力の目安」により分類された区分を参考にすることで、食べる人の状態に適した商品を安心して選ぶことが可能です。
そしゃく配慮食品の日本農林規格(JAS規格)
そしゃく配慮食品とは、「適度な付着性および凝集性を有すること」が定義づけられた食品のことです。定められた表示方式により、容器または包装の見やすい箇所に表示することとされています。
「舌でつぶせる食品」と「かまなくてよい食品」は「著しい離水がないこと」が要件になっています。それら以外の3食品は、「外観や食味を有していること」が要件です。
用語 | 定義 |
---|---|
そしゃく配慮食品 | 通常の食品に比してそしゃくに要する負担が小さい性状、固さその他のそしゃく配慮食品 品質を備えた加工食品(乳児用のものを除く)をいう |
容易にかめる⾷品 | その固さが、容易にかみ切り、かみ砕き⼜はすりつぶせる程度のもの(適度なかみごたえを有するものに限る)をいう |
⻭ぐきでつぶせる⾷品 | その固さが、容易にかめる⾷品と⾆でつぶせる⾷品の中間程度のものをいう |
舌でつぶせる食品 | そしゃく配慮食品のうち、その固さが、舌と口蓋の間で押しつぶせる程舌でつぶせる食品 度のものをいう |
かまなくてよい食品 | そしゃく配慮食品のうち、その固さが、かまずに飲み込める程度のもの |
引用:そしゃく配慮食品の日本農林規格の一部を改正する件 新旧対照表
特別用途食品(えん下困難者用食品)
特別用途食品(えん下困難者用食品)は、嚥下が困難な方に適した食品として、消費者庁から認定を受けた食品のことです。国が定めた食品の規格基準をクリアしており、誤嚥リスクが低減され、安全性と品質が確保されています。
えん下困難者用食品は、許可基準Ⅰ、Ⅱ、Ⅲに分類されており、認芸マークが目印です。以下は、えん下困難者用食品の規格基準です。
<規格基準>
規格 | 許可基準Ⅰ※1 | 許可基準Ⅱ※2 | 許可基準Ⅲ※3 |
---|---|---|---|
硬さ(一定速度で圧縮したときの抵抗)( N/m 2 ) | 2.5×10³~1×10⁴ | 1×10³~1.5×10⁴ | 3×10²~2×10⁴ |
付着性(J/m3) | 4×10²以下 | 1×10³以下 | 1.5×10³以下 |
凝集性 | 0.2~0.6 | 0.2~0.9 | - |
※1 均質なゼリー状
※2 均質なゼリー・プリン・ムース状
※3 不均質なものを含む、まとまりの良いおかゆ、やわらかいペースト状又はゼリー寄せ等の食品
スマイルケア食
スマイルケア食とは、農林水産省が厚生労働省や消費者庁などとも連携し、これまでの介護食品の範囲を見直して整備した、新しい介護食品の愛称です。
スマイルケア食は、青・黄・赤の3つのマークに分類されています。青は「かむことや飲み込むことに問題はないものの、健康上栄養補給を要する方」、黄は「かむことに問題がある方」、赤は「飲み込むことに問題がある方」が対象です。黄色は5~2の4段階、赤は2~0に分類されており、黄色は数字が小さいほどやわらかく、赤は飲み込みやすくなります。
スマイルケア食 | 分類 |
---|---|
青 | かむこと・飲み込むことに問題はないものの、健康維持上栄養補給を必要とする方向けの食品 |
黄5 | 容易にかめる食品 |
黄4 | 歯ぐきでつぶせる食品 |
黄3 | 舌でつぶせる食品 |
黄2 | かまなくてよい食品 |
赤2 | 少しそしゃくして飲み込める性状のもの |
赤1 | 口の中で少しつぶして飲み込める性状のもの |
赤0 | そのまま飲み込める性状のもの |
監修者コメント
スマイルケア食品やユニバーサルデザインフードは介護食を選ぶ際に、分かりやすくパッケージに区分が表示されており、活用しやすいです。
嚥下食の各分類の互換性
嚥下食にはさまざまな分類がありますが、農林水産省が「スマイルケア食」を軸に各分類の互換性を示しています。嚥下困難な方の場合は、スマイルケア食または、嚥下食ピラミッドの食形態を参考に始めると良いでしょう。
飲み込む力がある場合はユニバーサルデザインフードやそしゃく配慮食品などは、ある程度飲み込む力がある向けです。各分類の互換性は以下のとおりです。
Ⅰスマイルケア食 | 嚥下食ピラミッド | 学会分類2021 (j=ゼリー)(t=とろみ) |
ユニバーサルデザインフード | えん下困難者用食品 | そしゃく配慮食品の日本農林規格 |
---|---|---|---|---|---|
青 | レベル5 | - | - | - | - |
黄5 | - | - | 容易にかめる | - | 容易にかめる⾷品 |
黄4 | レベル4 | 4 | 歯茎でつぶせる | - | 歯茎でつぶせる食品 |
黄3 | 3 | 舌でつぶせる | - | 舌でつぶせる食品 | |
黄2 | レベル3 | 2-2 | かまなくてよい | - | かまなくてよい食品 |
赤2 | 2-1 | 許可基準Ⅲ | - | ||
赤1 | レベル1.2 | 1j | 許可基準Ⅱ | - | |
赤0 | レベル3の一部 | 0j | - | 許可基準Ⅰ | - |
赤0 | レベル0 | - | - | - |
嚥下食ピラミッド【まとめ】
嚥下食ピラミッドは、嚥下食を提供する際の食形態において共通認識を持つために、その基準を示したものです。大きく6つに分類されており、嚥下機能の低下や回復に合わせて段階的に食形態をスムーズに移行でき、無理なく安全に食事が摂れるようサポートできます。
また、スマイルケア食品やユニバーサルデザインフードなども、介護食を選ぶ際に役立ちます。適切な食形態を選択することは、嚥下機能の低下や栄養状態の改善にも繋がります。活用しやすい分類を参考に、食べる方に合った食形態を選びましょう。
監修者コメント
嚥下食ピラミッドは食形態の判断に迷ったときに役立つのはもちろんですが、食べる方の状態把握にも繋がります。嚥下食における正しい知識を学び、食形態の分類を参考にしながら、適切な対応力を身につけましょう。
監修
中山友子
食品工場の品質管理にて、食品検査や分析業務を4年半担当しておりました。その後、病院や高齢者施設の厨房業務に2年半従事し、現在は食や健康のジャンルの記事を執筆する栄養士ライターとして活動しております。
その後、病院や高齢者施設の厨房業務に2年半従事し、現在は食や健康のジャンルの記事を執筆する栄養士ライターとして活動しております。
食の専門家として、食に関する知識や役立つ情報をお届けいたします。