嚥下食とは?適さない食品や調理のポイントを解説
嚥下食とは、高齢者の食事形態のうち、嚥下機能が低下した方を対象にしたものです。嚥下機能レベルに応じた適切な食事を提供することで、栄養状態の改善や誤嚥防止などの効果が期待できます。 本記事では、嚥下食とはどのようなものかを解説したうえで、嚥下食に適した食材と適さない食品、作る際のポイントなどを解説します。
■この記事でわかること
- ・嚥下食とはどのようなものか
- ・嚥下食に適さない食品と適した食品
- ・嚥下食を作る際のポイント
嚥下食とは
嚥下食とは、咀嚼や飲み込みといった嚥下機能が低下した方を対象とする、食形態の総称です。口から食べることは、生きる力を取り戻す原動力となるため、嚥下食は大切な役割を担っています。
嚥下機能が低下した方でも食べやすい食形態
嚥下食は、食べ物を飲み込む機能が低下した方に対し、飲み込みやすさに配慮した食形態です。嚥下機能の低下が見られる方でも食べやすいように、嚥下機能のレベルに応じて、とろみ付けや形態による飲み込みやすさ、食塊のまとまりやすさが調整されています。また、嚥下訓練に用いられる嚥下訓練食品も、嚥下食に含まれます。
嚥下食は、日本摂食嚥下リハビリテーション学会により、以下の5段階に分類されています。段階に応じて形態を変えることによる、機能回復に向けたリハビリテーションも目的のひとつです。
嚥下食の分類 | 形態・特徴 | |
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コード:0 | 0j |
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0t |
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コード:1j |
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コード:2 | 2-1 |
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2-2 |
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コード3 |
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コード4 |
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参考資料:日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2021
介護食との違い
嚥下食と介護食に明確な違いはなく、意味としては同じです。ただ場面によって呼び方に違いがあることがあります。医療の場面では「嚥下調整食」、介護の場面では「介護食」と呼ばれることが多いです。
嚥下食は、「嚥下訓練食」「嚥下食(嚥下調整食)」「介護食(移行食)」の3つで構成されており、機能レベルに応じて対応します。
監修者コメント
できるだけ現状可能な食形態で食べることにより、機能の回復や低下を防ぐことが大切です。介助する方は、食事の様子や嚥下状態をよく観察しましょう。
嚥下食に適さない食品・適した食品
嚥下食に使用する際に注意したいのが、使う食品です。嚥下食には、食形態や食品によって、適さないものと適したものがあります。それらを正しく把握したうえで、適さない食品の扱いに注意し、適切な形で食事を提供することが大切です。
ここでは、嚥下食に適さない食品と、適した食材を、それぞれ紹介します。
嚥下食に適さない食品
食べにくいものや飲み込みにくい食品は、嚥下食には適しません。これらの食品を嚥下食に使用する際は、嚥下機能が低下した方でも安全に摂取できるように、食べやすく、 飲み込みやすくするための工夫が必要です。
■嚥下食に適さない食品
食形態 | 食品例 |
---|---|
サラサラとした水分・噛むと水分が出てくるもの | イモ類、ゆで卵、パン、高野豆腐 |
パサパサしているもの | 味噌汁、お茶、ジュース、高野豆腐の含め煮 |
まとまらないもの | ひき肉、おから、ひじき、かまぼこ、とうもろこし |
張り付きやすいもの | のり、わかめ、餅、トマトの皮 |
弾力性のあるもの | たこ、いか、こんにゃく、きのこ類 |
硬いもの・噛み切りにくいもの | ごぼう、れんこん、たけのこ、ナッツ、肉、りんご |
すべりがよいもの | ところてん |
サラサラした水分は速いスピードでのどに落ちていくため、むせや誤嚥の原因になります。また、水分が少なくパサパサしたものや、まとまりにくいものは、口の中でバラバラになるため、誤嚥に繋がります。
口腔内に張り付きやすいものも、のどへの送り込みが難しいため危険です。硬いものや噛み切りにくいものは、噛む力が低下している方には不向きです。ところてんのようなつるっとした食品は、噛まずに飲み込んでしまうと、のどに詰まらせる恐れがあります。
嚥下食に適した食品
下表は、嚥下食に適した食品の条件と、それぞれに該当する食品の例をまとめたものです。
■嚥下食に適した食品例
嚥下食に適した食品の条件 | 例 |
---|---|
食材の大きさ・硬さが均一なもの | おかゆ、ゼリー |
まとまりがあるもの・まとまりやすいもの | マヨネーズ和え、あんかけ、シチュー、ゼリー |
飲み込みやすいもの | ヨーグルト、ポタージュ、ゼリー |
口腔内や咽頭に張り付きにくいもの | ゼリー |
嚥下食に適した食品の中でも、4つの条件のすべてに共通するのがゼリーです。ゼリーはのどごしがよく、まとまりやすくて飲み込みやすいという特徴があります。
ただし、ゼリーは離水に注意してください。離水とは、固形分と水分が分離することをいいます。市販のカップゼリーを開けたときに水分が飛び出てくることがありますが、それがまさに離水している現象です。
離水は糖分が少ないことで起こります。離水が多いと、食べたときに気管に入ってむせたり、誤嚥したりする恐れがあるため、注意すべきです。
監修者コメント
嚥下食に適さない食品と、適した食品の食形態と食品をしっかり把握し、危険な食品には留意しましょう。
嚥下食を作る際のポイント
嚥下食を作る際、適した食品に限定してしまうと食事内容や栄養に偏りが生じやすいです。嚥下食に適さない食材であっても、調理を工夫することで食べやすくすることができます。嚥下食を作る際のポイントを4つ紹介します。
- とろみをつける
- 加熱してやわらかくする
- やわらかく煮込む
- 食べやすい料理を作る
それぞれ見ていきましょう。
【ポイント①】とろみをつける
誤嚥の原因となる、サラサラとしたものや、まとまりのないもの、パサつくものには、市販のとろみ剤で粘度をつけましょう。適度な粘度をつけることで、まとまりやすく、飲み込みやすくなります。
とろみ剤は、片栗粉のように加熱する必要がありません。また、冷たいままでもとろみをつけることができます。ダマになりにくく溶けやすいため、安全にとろみをつけられるのもメリットです。
ただし、とろみが強すぎると、口やのどに張り付いて、むせる原因になります。料理や嚥下機能に合わせてとろみ剤の使用量を変え、とろみの程度を調節してみてください。
【ポイント➁】下ごしらえを工夫する
嚥下食を作る際は、使う食品によって下ごしらえを工夫しましょう。皮をむいたり、切り方を工夫したりすることで食べやすくなります。
例えば、トマトの皮は口腔内やのどに張り付きやすくて危険なため皮をむく、野菜や肉の繊維を断つように切る、隠し包丁を入れる、繊維のある野菜や硬い野菜は小さめにカットするなど、調理の前にひと手間加えてみてください。食材に火が通りやすくなり、柔らかく仕上がることで、安全に食べられます。
【ポイント③】加熱してやわらかくする
通常は嚥下食に適さないゴボウやれんこんといった根菜、焼くだけでは硬いお肉でも、圧力鍋などで煮込めば食べやすくなります。箸で簡単にくずせるほどやわらかくなるうえに、コクや旨味が出ておいしく仕上がり、調理時間の時短にも繋がります。
また、食材の形を残したままやわらかく調理できるので、何を食べているかわかり、食事を楽しむことができるでしょう。
【ポイント④】食べやすい料理を作る
嚥下食を調理する際は、食べやすさも重視するポイントです。同じ食材でも、何の料理にするかによって、食べやすさは変わります。
例えばじゃがいもは、その違いが顕著です。粉ふき芋にするとパサパサして口の中でまとまりにくいですが、ポテトサラダならマヨネーズにより芋がしっとりとして、食べやすくなります。加えて、高齢者に不足しがちなエネルギーを補えるのもメリットです。
そのほかにも、シチューやカレー、ビーフシチューなどのとろみのついた料理に入れると、飲み込みやすく食べやすくなります。食材に適した食べやすい形態の料理を選びましょう。
嚥下食は宅配食も活用しよう
嚥下食は、嚥下機能が低下した方でも安全に食べられるよう、飲み込みやすさに配慮した食形態です。嚥下機能の段階に応じて、適切な形態で食べることで、機能低下を防ぐことにも繋がります。
嚥下食を作る際は、誤嚥などのリスクをきちんと理解したうえで、嚥下状態に合わせてとろみをつけたり、食材をやわらかくする下準備や料理を選んだりするのがポイントです。安全においしく食べてもらうための工夫をしてみてください。
しかし、嚥下食を毎日作るのは容易なことではありません。食事作りの負担を減らすなら、宅配食の利用をおすすめします。宅配食とは、栄養バランスが整ったおいしいお弁当やお惣菜が自宅に届くサービスのことです。宅配食のなかには、ムース食やソフト食といった食形態が用意されたサービスもあるため、嚥下機能に合わせた食事を選ぶことができます。
「シニアのあんしん相談室」なら、全国の宅配食サービスを特色や価格帯などから比較検討できます。ご自宅の地域で対応しているサービスから適したものを選べます。宅配食サービスの利用を検討される場合は、チェックしてみてください。
監修者コメント
嚥下食は、個々の嚥下機能に応じた形態の食事を提供することが大切です。嚥下食の形態について正しく理解して実践することで、機能低下を防ぎましょう。
とろみ剤や食べやすい形態の食品などを活用し、調理を工夫することで、安全でおいしい食事を提供することを心がけてみてください。
監修
中山友子
食品工場の品質管理にて、食品検査や分析業務を4年半担当しておりました。その後、病院や高齢者施設の厨房業務に2年半従事し、現在は食や健康のジャンルの記事を執筆する栄養士ライターとして活動しております。
その後、病院や高齢者施設の厨房業務に2年半従事し、現在は食や健康のジャンルの記事を執筆する栄養士ライターとして活動しております。
食の専門家として、食に関する知識や役立つ情報をお届けいたします。