制限食とは?主な6つの種類・用意する際のポイントを紹介
病気の治療中は治療効果を高めるために食事内容を制限する場合があり、その食事を制限食といいます。しかし、一口に制限食といっても、病気の種類や状態によって種類が異なります。
■この記事でわかること
- ・制限食とは何か
- ・制限食の種類や注意点
- ・制限食で覚えておきたい工夫点
高齢者の食事摂取基準を理解したうえで、日々の食事に活かしていきましょう。
制限食とは
制限食とは、食べる人の健康状態や持病に合わせて、エネルギー量や栄養素の制限を行う食事のことです。医療機関では療養食や一般治療食、特別治療食などと呼ばれています。制限食には、持病の悪化や合併症などの発症を防ぐ役割があります。
例えば臓病の場合、たんぱく質を制限します。たんぱく質は体を作るうえで欠かせない栄養素ですが、体内で代謝される際に老廃物が発生します。通常、老廃物は腎臓が処理して尿中に排出します。しかし、腎臓病を抱えている場合、老廃物の処理が正常に行えず、体内に蓄積して「尿毒症」を発症することがあるのです。
このように健康な人にとって必要な栄養素でも、特定の人にとっては制限が必要な栄養素になりえるのです。薬だけでは治療が追いつかず改善が見込めないため、食事にも制限をかけて薬の効果を高める必要があります。
監修者コメント
制限食は自己流で進めないようにしましょう。同じ制限食でも、病気の種類や状態によって適切な量が異なる場合があるからです。無理な制限をするとかえって病状が悪化する可能性もあります。必ず医師や管理栄養士の指示に従いましょう。
制限食が必要な健康状態・病気
病気の治療や進行を食い止めるためにも、医師から制限食を指示される場合があります。制限食はさまざまな病気に用いられますが、ここでは生活習慣病など特に制限食が有効とされる病気をまとめました。
制限食が必要な主な健康状態・病気 | 詳細 ※個人の健康状態や病気によって異なる |
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脂質異常症 | <どんな病気?> 血液中の脂質の数値が基準値から外れている病気 <制限するもの>
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高血圧 | <どんな病気?> 血圧が基準値よりも高い病気 <制限するもの>
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糖尿病 | <どんな病気?> インスリンの機能不足により、血液中に糖が増えてしまう病気 <制限するもの>
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腎臓病 | <どんな病気?> 腎臓が上手く機能しなくなる病気 <制限するもの>
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ただし、人によって制限する栄養素の量が異なるため、かかりつけ医や管理栄養士に相談のうえ、制限食に取り組みましょう。
制限食の種類
制限食は、主に以下の6種類です。
- ・カロリー制限食
- ・塩分制限食
- ・糖質制限食
- ・脂質制限食
- ・たんぱく質制限食
- ・カリウム制限食
病状の改善または症状の進行を食い止めるためには、病気に合わせて特定の栄養素を制限する必要があります。それぞれどんな食材を制限をするのか、注意点やポイントを詳しく紹介します。
1:カロリー制限食
カロリー制限食は糖尿病、肥満症、脂質異常症などの治療に用いられます。摂取カロリーを定め、体重を減らすのが目的です。
制限する食材の例
- ・主食(米、麺、パンなど)
- ・油脂(油、バターなど)
- ・脂身の多い肉
- ・果物
- ・菓子類
- ・食塩 など
カロリーが高い食材の使用を制限するのが基本です。主食の量を決め、できるだけ油脂を使わない調理法にするなど工夫をし、カロリー制限を行います。また脂身の多い部位の肉や、果物や菓子類も控えます。食塩の量が多いと、高血圧や早食いの原因にもなってしまうため、薄味にしましょう。
注意点は、やみくもにカロリーを制限すればよいわけではないことです。人によって運動量や目標体重が異なるため、医師に相談してエネルギー量を決めてもらいましょう。
2:塩分制限食
塩分制限食は高血圧、腎臓病、糖尿病、肥満症、脂質異常症などさまざまな病気の治療に用いられる食事で、減塩食とも呼ばれます。高血圧の場合、塩分は男女ともに1日6g以下になるよう制限をします。
制限する食材の例
- ・調味料(食塩、醤油、味噌など))
- ・加工食品(練り物、ハム、ソーセージなど)
- ・汁物
- ・スナック菓子 など
塩分を多く含む調味料や加工食品、汁物、スナック菓子などの摂取量を控えるのが基本です。外食では塩分を多く含む料理を摂りがちなので、塩分表示を見て注文することも大切です。麺類の汁を残したり、スープを半分にしたりするなどの工夫もしてみましょう。
塩分制限食の注意点として、継続しないと効果が見込めない点があります。徐々に薄味に慣れていったり、薄味でもおいしく感じられるような調理の工夫をしたりして、塩分制限食を習慣づけることが大切です。
3:糖質制限食
糖質制限食は糖尿病や肥満症などの治療に用いられ、カロリー制限食と併用することもあります。血糖値の急上昇を防ぎ、血糖値のコントロールをしやすくする狙いがあります。
制限する食材の例
- ・主食(米、麺、パンなど)
- ・果物
- ・砂糖、みりん、はちみつなど甘い調味料
- ・じゃがいもやさつまいもなど糖質の多い野菜 など
主に糖質の多い食材を制限します。なお、糖質は完全に制限すると健康に悪影響を及ぼすため、医師や管理栄養士の指示にしたがって摂取量を決めましょう。
注意点はインスリン注射をしている方や血糖降下薬を内服している方は、低血糖になる可能性があることです。薬物療法も併用している方は、必ず医師に相談のうえ糖質制限を行ってください。
また腎臓病の方も糖質制限食は利用できません。腎臓病の場合、糖質から十分にエネルギーを確保する必要があるため、自己判断で糖質制限食を利用しないようにしましょう。
4:脂質制限食
脂質制限食には、脂質異常症、急性・慢性膵炎、急性肝炎、胆石症などの「脂質の量に制限が必要な症状」に用いられる食事と、高LDL血症などの「脂質の質をコントロールする必要がある症状」に用いられる食事の2種類があります。
脂質の量を制限する場合に控える食材の例
- ・脂身の多い肉
- ・肉の加工食品(ハム、ソーセージなど)
- ・揚げ物
- ・生クリーム
- ・スナック菓子
- ・マヨネーズ など
脂質の質をコントロールする場合に控える食材の例
- ・レバー
- ・鶏卵
- ・魚卵(いくら、かずのこなど)
- ・うに
- ・バター
- ・魚介類の内蔵(白子、あん肝など) など
脂質の量を制限する場合は、脂質を多く含む食材の摂取を控えます。一方、脂質の質のコントロールを目的とする場合は、コレステロールを多く含む食材を制限します。
慢性膵炎は長期間脂質の量を制限しなければなりません。飽きがこないよう、バリエーション豊かな献立を考え、病気と付き合っていく必要があります。また病気によっては摂るべき脂質の種類も決まっているため、自己判断ではなく、必ず医師や管理栄養士の指示に従ってください。
5:たんぱく質制限食
たんぱく質制限食は、腎臓病の治療に用いられる食事です。健康な人と同じ量のたんぱく質では腎臓に負担をかけるため、病状にあわせてたんぱく質の摂取量を控えます。通常、たんぱく質制限と同時に食塩も制限します。
脂質の量を制限する場合に控える食材の例
- ・肉
- ・魚
- ・豆腐
- ・卵 など
たんぱく質を含む食材を制限しますが、食べてはいけないわけではなく、指示された量以内であれば好きな肉や魚などを食べても構いません。ただし摂取量が限られるため、できるだけ良質なたんぱく質を摂る必要があります。
良質なたんぱく質とは、動物性たんぱく質のように、効率の良い体づくりに役立つ食品のことです。植物性たんぱく質よりも筋肉になりやすいため、指示されたたんぱく質のうち50~60%は動物性たんぱく質を摂取すると良いでしょう。
また、たんぱく質を制限すると、摂取エネルギーも減りやすくなります。そのため、炭水化物や脂質が多い食品を利用して、十分にエネルギーが確保できるよう工夫しましょう。ごはんや麺にもたんぱく質が含まれているため、腎臓病向けのたんぱく質調整食品を利用するのもおすすめです。
6:カリウム制限食
カリウム制限食は、腎臓病に用いられるたんぱく質制限食と併用されることが一般的です。
脂質の量を制限する場合に控える食材の例
- ・野菜(いも類、ほうれん草、かぼちゃ、小松菜など)
- ・果物(バナナ、アボカド、キウイ、いちごなど)
- ・海藻(昆布、ひじき、のりなど)
- ・魚類(マグロ、サワラ、タイなど)
- ・肉類(脂質の少ない部位) など
カリウムは幅広い食品に含まれているため、すべて制限してしまうと必要な栄養素が不足する心配もあります。カリウムは水に溶けやすいため、この性質を活かして、調理にひと工夫しましょう。
例えば、野菜は切ってから水にさらしたり、ゆでこぼしたりしてカリウムの量を減らすことができます。果物は生のものより缶詰のほうがカリウムの量が少なくなります。肉類は脂質の多い部位を選ぶなど、工夫次第でカリウムの摂取量は減らせるでしょう。
制限食を用意する際のポイント
制限食は、ある程度の期間、継続して食べ続けなくては十分な効果を得られません。しかし、指示された食品をただ取り除くだけではおいしくない、あるいはすぐに飽きてしまうこともあるでしょう。長期間続けても飽きずにおいしく食べてもらえるよう、食事を用意する際にいくつか工夫をしてみましょう。
ここでは、すぐに実践できる2つのポイントを紹介します。
調理に工夫を凝らす
塩分制限や糖質制限をすると、料理の味に大きく影響があり、おいしく感じられない場合があります。すると食事量が減少し、健康状態の悪化にもつながるため、制限食でもおいしく感じられる工夫が必要です。
例えば塩分制限の場合、少ない塩分でも味がしっかりと感じられるよう、出汁で旨味を強調したり、酸味で味を整えたりするとよいでしょう。ほかにも焼き目をつけて香ばしさをプラスする、表面に味をつけるなどのテクニックもあります。
また、すべての料理を薄味にするのではなく、主菜は普通の味付けにして、副菜をごく薄味にするなどメリハリをつけると食べやすくなります。
塩分制限や糖質制限で役に立つ食材の例を以下にまとめました。
旨味 | 出汁 | かつお節・昆布・椎茸・煮干し など |
香り | 香辛料 | わさび、唐辛子、カレー粉、コショウ、ゴマ など |
香味野菜・ハーブ | しそ、ネギ、生姜、にんにく、みょうが、セロリ、パセリ、バジル、ローズマリー、オレガノ など | |
海苔 | 海苔、青のり、あおさ など | |
酸味 | 柑橘類、酢 | レモン、ゆず、かぼす、すだち、お酢 |
食材 | 新鮮なもの | 味のついた加工品ではなく生ものを選ぶ(生魚、生肉) |
糖質の代替 | 糖質が少ない食品 | しらたき、こんにゃく、ブロッコリー、カリフラワー、豆腐、大豆 など |
糖質制限をする場合、主食の量が減ると満足感を感じにくくなることもあります。そんなときは、主食に刻んだしらたきを混ぜてかさ増しをする、ブロッコリー、カリフラワー、豆腐など食べ応えのある食材をプラスするといった工夫で、満足感を得やすくなるでしょう。
監修者コメント
味を大きく変えず調理するには、減塩調味料を利用するのもおすすめです。商品によって味の感じ方が異なる場合があるので、少量サイズから試してみるのもいいでしょう。
また通常のご飯よりも糖質を控えたごはんや麺もあります。やや割高になりますが、量を減らすよりも満足感が得られるので、試してみるのもひとつの手です。
宅配食事サービスを活用する
制限食を用意する際は、さまざまなポイントに気を付けなくてはなりません。普段の料理に加えて制限食を用意するのは手間と時間がかかるため、悩んでしまう方も多くいます。
そこで、制限食にも対応している宅配食事サービスを利用するのがおすすめです。自宅に制限食が届くので、作る手間と献立を考える手間が省けます。献立は医師や管理栄養士が監修しており、安心して利用できるでしょう。
ただし、業者によって配達対応地域や取り扱いのある制限食の種類は異なります。自分で対応してくれる業者を探すのは大変だと感じたら、シニアのあんしん相談室を利用してみましょう。
郵便番号を入力し、検索条件を設定することで、お住まいの地域で制限食を取り扱う業者があるかどうか、簡単に調べられます。気になる業者があれば資料請求や試食の申し込みも可能です。
制限食の種類とポイント【まとめ】
制限食は病気の治療に用いられることが多く、種類ごとに制限する食品が異なります。主な制限食は以下の6種類です。
- ・カロリー制限食
- ・塩分制限食
- ・糖質制限食
- ・脂質制限食
- ・たんぱく質制限食
- ・カリウム制限食
制限食は一時的なものもありますが、多くの場合は長期間続けなくてはなりません。食材を制限すると味が変わることもあり、おいしく感じられないこともあるでしょう。しかしおいしく食べられないと食事量が減り、健康状態が悪化して別の病気を引き起こす可能性もあります。
制限食でもおいしく感じられるよう、調理時に工夫をしてみましょう。自分で用意するのが難しい場合は、宅配食事サービスを利用するのもおすすめです。無理なく制限食を続けて、いつまでも元気に過ごしましょう。
監修者コメント
健康な状態を維持するためにも、薬による治療だけでなく食事面からもアプローチすると効果的です。制限は多くなりますが、工夫次第でおいしい食事になりますので、制限食の不明点は医師や管理栄養士に相談してみましょう。
監修
相田すみ子
寮生の栄養管理、老人保健施設、内科・整形外科などで経験を積んだ後、フリーの管理栄養士兼ライターとして活動。
今日より少し健康になれるレシピを開発したり、体と栄養の関係について多くの人に伝えたりするために、コラム執筆、本の執筆協力などを行っている。